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第2章 記号論理

 論証の形式的妥当性、すなわちものごとを論じるときの論じ方そのものの正しさを議論する形式論理は、Aristotleの時代にその起源を求めることができます。しかし今日見られるように、論理が記号的な体系にまとめられ、記号のレベルで論理的関係が論じられるようになったのは19世紀半ばになってからのことです。このような記号論理の基礎を作ったのがBooleやFregeであり、とくにFregeは「述語」という概念を導入して述語論理を作りました。

 論理とは思考の形式的パターンのことであるから、記号論理が人間の思考をテーマとする人工知能と密接な関係にあることはいうまでもないことです。しかし記号論理が人工知能にとって重要なのはそのためだけではありません。述語論理は人工知能が対象とする問題を記述する上で強力な表現手段を提供しています。記号論理は人工知能の分野における「言語」としての役割も果しています。

 このページの目次

2.1節 命題論理
2.2節 述語論理

 2.1節 命題論理

 対象とする世界の事柄に関して文が述べられている内容を命題といいます。例えば

  1. 太郎は日本人である。

  2. 花子は日本人である。

  3. 太郎と花子は日本人である。

  4. 夜になり晴れていれば星が見える。

  5. 昼であるか曇っていれば星は見えない。

などはすべて命題です。文は一般に主語・述語の対応関係を1つだけ含む単文といくつかの単文から構成された複号文とに大別されます。命題についても同様です。最小単位となる命題を基本命題といい、いくつかの基本命題からある定まった方法で構成される命題を複合命題といいます。例えば、1や2は基本命題です。3は「太郎は日本人であり、かつ花子は日本人である」ということであるから2つの基本命題1と2から構成された複合命題であると考えられます。4もまた、「夜になる」「晴れている」「星が見える」という3つの基本命題から構成された複合命題です。単文の内容には立ち入らず、基本命題と複合命題の間の論理的関係を論じるのが命題論理です。

 形式論理の関心は個々の命題の具体的な内容にではなく、専ら命題間の論理的関係にあります。そこで命題については、それが「真」(true)であるか「偽」(false)であるかということだけが問題となります。すなわち、論理式の意味は真か偽かということになります。そして論理記号の意味は、それによって結合される命題の真偽関係によって定義されることになります。真,偽をそれぞれT,Fという記号で表せば、論理記号の意味は表.1および表.2のように定義されます。

表.1: 否定の論理的意味

P
P
T
F
F
T

表.2: 連言、選言、含意、同値の論理的意味

P Q
P Q
P Q
PQ
PQ
T T
T F
F T
F F
T
F
F
F
T
F
F
F
T
F
T
T
T
F
F
T

 論理記号の意味がこのように定義されると、論理式の真偽はそれを構成している素式の真偽に基づいて一意に決定できることになります。素式の真偽に基づいて論理式の真偽を明らかにすることを論理式の解釈といいます。素式の真偽はそれに対応付けられる基本命題が真であるか偽であるかによって決められます。

 一般に、論理式はそれを構成している素式の真偽に応じて真になったり偽になったりします。素式の真偽のあらゆる組合せに対する論理式の解釈を表の形式にまとめたものを真理値表といいます。

 論理式は一般に、それを構成している素子の真偽に応じて真になったり偽になったりしますが、なかには素式の真偽のあらゆる組合せに対して真偽が常に変わらない論理式もあります。

  ・ 恒真式 : 素式の真偽にかかわらず常に真となる論理式。
  ・ 恒偽式 : 素式の真偽にかかわらず常に偽となる論理式。

 当然の事ですが、恒真式の否定形は恒偽式であり、恒偽式の否定形は恒真式です。

 論理式の解釈という立場からは、次のような言い方ができます。

  ・ 妥当 : 論理式P が恒真式であるとき、P はいかなる解釈に対しても真であるという意味で「P は妥当である」という。
  ・ 充足不能: 論理式P が恒偽式であるとき、P を真にするような解釈は1つも存在しないという意味で「P は充足不能である」という。
  ・ 充足可能 : 論理式P が恒偽式でないとき、P を真にするような解釈が少なくとも1つは存在するという意味で「P は充足可能である」という。

 以上の関係を図示すると、図.4のようになります。

論理式の分類

図.4: 論理式の分類

 2.2節 述語論理

 命題論理では、論証における論理的な関係を、命題を最小単位としてとらえることによって、推論の"正しさ"を議論することができました。しかしながら、命題を最小単位とする表現ではおおさっぱすぎて不十分な場合も多くあります。以下のような推論を考えてみましょう。

  1. すべての日本人は人間である。
  2. 太郎は日本人である。
ゆえに
  3. 太郎は人間である。

 このような推論は日常よく行われ正しいと考えられています。ところが命題論理を用いてこの推論が"正しい"ことを証明しようとしてもできません。すなわち1,2,3の各命題をそれぞれ素式 p ,q ,r で表し

(p q ) → r

という論理式の妥当性を調べると、この論理式は妥当ではないことがただちにわかります。つまりこの推論は健全ではないということになります。ではこのような推論は誤っているのでしょうか? そうではないでしょう。この推論には「日本人である」、「人間である」といった個体の性質を表す因子が各命題に共通して含まれていて、そのことがこの推論を正当化する要因となっています。ところが命題論理では各命題をただ単に p ,q ,r といった記号で表すので、こうした因子の作用は全く無視されることになってしまいます。このような推論を議論するには、命題の内部構造まで考慮した表現が必要です。

 述語論理は個体に着目し、「個体について何が述べられているか」という観点から命題の内部構造をとらえます。例えば 1 の命題は

「すべての個体について、その個体が日本人ならば人間である」

というようにとらえています。そこで、任意の個体を記号 x で表し、「日本人である」を記号 J で、「人間である」を記号 M で表すことにすれば、「x が日本人ならば人間である」ということは

J (x ) → M (x )

と表すことができます。そして「すべての x について」ということを 記号∀を用いて ∀x と表すことにすれば、1の命題は

x [ J (x ) → M (x ) ]

というように表すことができます。また、「太郎」を記号 a で表せば、2の命題は

J (a )

というように表すことができます。このような記号表現を述語論理式といいます。また、このような表現において、議論の対象となる個体の集合を対象領域といいます。

 述語論理は命題論理の拡張であり、特に個体についてのみ変数を認める述語論理は第1階述語論理と呼ばれます。第1階述語論理式は次のような要素から構成されます。

  個体定数 特定の個体を表す記号で、a , b , c , … などが用いられます。
  個体変数 任意の個体を表す記号で、x , y , z , … などが用いられます。
  関数記号 個体間の関係を表す記号で、f , g , … などが用いられます。対象領域を D とし、fn 変数の関数記号とすれば

fD n → D

となります。
  述語記号 個体に関する言明を表す記号で、P , Q , … などが用いられます。対象領域を D とし、Pn 変数の述語記号とすれば

PD n → { F , T }

となります。
  論理記号 論理式と論理式を統合する記号で命題論理と同じ記号が用いられます。
  限量記号 対象領域内の対象となる個体の範囲を示す記号で、次の2つが用いられます。

 ・ ∀ : 全称記号と呼ばれ、「すべての…」という概念を表します。
 ・ ∃ : 存在記号と呼ばれ、「…が少なくとも1つある」という概念を表します。
  束縛変数 限量記号で限定された変数のことです。
  自由変数 束縛変数でない変数のことです。
  閉 式 : 自由変数を含まない述語論理式のことです。

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